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例えばこんな日常

第32章 FLAVOR GALLERY vol.2


「…またかぁ」

意気揚々と話す母さんに隠れてひっそりと溜息。

手元にはタグのついた真新しい黄色のTシャツ。

隣を見れば"ありがとう"と母さんに笑いかける緑色のTシャツを持ったまーくん。

双子だからって何でいっつも色違いの服買ってくんだよ。

色で区別しなくたって俺たち全然似てねーじゃん。

たまにはさ…まーくんと同じ服着たいよ、俺だって。

「かず?どしたの?」
「えっ…なんでもない」
「かずー?」

しょんぼりしている俺に気付いたのか、大げさに顔を近付けて覗き込んでくる。

そうされると決まって顔が赤くなってしまうのが俺の弱点で。

「くふ、どしたのかず。顔真っ赤だけど」
「まーくんが近いからだろっ」

言い返してみても、怯むどころかむしろ楽しむようにほっぺたをグニグニしてくるから。

まーくんは絶対気付いてるんだ、俺の気持ちに。

でも気付かないフリをしてる。

そうやって俺の反応を楽しんでるんだもん。

不貞腐れて自分の部屋に駆け込みクローゼットを勢いよく開ける。

目につく服はどれもまーくんとお揃いでも色違いの物ばかり。

同じ色を身に付けた事はほとんどなくて。

思い返せば何かにつけて俺とは違う物を選んできたまーくん。

『まーくんそっちにするの?じゃあ俺も同じにする』
『え、かずこれなの?じゃあ俺こっち』

って、わざとのように俺には絶対合わせてくれない。

もしかして…俺のこと嫌いなの?

俺と一緒じゃ嫌なの?

そう思ってしまったら最後、じわじわと込み上げてくる涙で鼻の奥がツーンとしてくる。

まーくん…

ふいのノックの後、すぐに開けられたドアにびくっと肩を揺らした。

「あれ?かず?」

なんで返事もしてないのに勝手に入ってくんだよって。

言い返したいのに涙が邪魔して言葉にならない。

「なに泣いてんの?どっか痛い?」
「ちがっ…」
「あ、分かっちゃった俺。ここが痛いんだろ?」
「っ…」

そう言って急に抱き寄せられた体。

合わさった胸に鼓動がとくとくと伝わって。

「ほらね、やっぱり。俺なーんでも分かってるよ?かずのこと」

言いながら頭を優しく撫でつける手つき。

でも肝心なことは分かってない。

ううん、分かってないフリをしてる。

"俺たち以心伝心だね"って微笑むまーくんを。

嫌いになんか…なれるハズがない。


end

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