テキストサイズ

秘密中毒

第15章 再出発



飛行場のラウンジで、あたしたちはコーヒーを飲んでいる。

「いよいよだね」

あたしが言うと、あの人は微笑んで

「寂しくなるな」

と言った。

あたしが返事につまっても気に留めず、あの人は続けた。

「引越し先は片付いた?」


「まだまだ散らかってる。でも保育園の近くだから…
仕事の後に時間があるし。」


「そうか。…お互いに再出発だな。」



「うん」



今日はあの人がアメリカへ発つのを見送るために空港にいる。

言葉は少ないけれど、穏やかな別れ。

あの人が言った、再出発という言葉がストン、と胸に落ちた。


夢を捨ててなかったあの人と。
仕事にやりがいを持ってた山田くんと。

あたしは同じ場所に立ちたいと思ったんだ。

自分の足でふんばって、ちゃんとひとりになるために、あの人と別れて。

あたしは隣の県の保育園に就職を決めていた。

山田くんはあたしがアメリカに行ったと思ってる。

それでいい。

自分のために「遊び相手」が人生変えちゃったんじゃ、やりにくいだろうから。

あたしは、二度、彼に恋した。

それだけでいい。

…………


「あいつ」


「え?」

唐突にあの人が切り出した。

「僕が殴ったあいつね。

車から降りてた。」




ストーリーメニュー

TOPTOPへ