秘密中毒
第4章 異変
朝起きたときからおかしかった。
「いっ………たぁ」
頭と喉が痛い。
風邪ひいたな…
あたしは少し考えてから、1年前に熱を出したときに病院でもらった薬を飲んだ。
飲みきらないうちに回復したので忘れ去っていたものだ。
あの時も確か風邪だったから、この薬が効くだろう。
仕事できないほど辛くはないし、第一昨日も休んだから休めない。
(エッチしすぎで風邪引いたかも?)
なんて心の中で呟きながら、いつものように朝ごはんを出し、弁当を作ってあの人を送り出す。
「行ってきまー…ん?」
玄関先でいつものように形だけのキスをしようとしたあの人を、あたしが制する。
「風邪気味だから、ダメだよ」
「そう…大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、薬飲んだし!
あなたは来週出張だから、うつしちゃ困るでしょ?」
「そうだな…じゃ、行ってきます」
あっさりとあたしから離れて出ていく。
あたしは自室に戻って通勤の服に着替えながら、声に出してみる。
「なにが大丈夫?よ。こんなに声枯れてるのにも気づかないでさっ!」
………。
つくづくあたしに興味ないんだよね。あの人。
「はあああ。」
こんな小さなことで凹んでる自分が馬鹿馬鹿しい。
卓也さんの存在で癒されてることは確かなのに。
ひどい裏切りをしているのはあたしのほうなのに。
それでもあの人への寂しさは消えてなかった。
あの人に開けられた心の穴は、
あの人にしか埋められないのかな……。
そう考えると、余計に暗くなる。
だってあの人は、あたしに向き合わないから。
あたしが求めるようには、向き合ってなかった。たぶん初めから、ずっと――――
「わ!もうこんな時間っ」
時計を見たあたしは、あわてて会社に向かった。
薬はもう少しあるから、夜も飲めば風邪は良くなるだろう。
楽勝、楽勝――――
元はといえば、それが間違いのもとだったんだけど。