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素晴らしき世界

第32章 ナレーションとモンタージュ

「和、ちょっといい?」

「うん」

ゲームをセーブして、潤くんの元に行こうと
立ち上がったけど姿が見えない。

「潤くーん?」

「こっちこっち」

ひょこっと顔を覗かせて手招きした。

「どうしたの?」

辿り着いたのは浴室の前。

ドアはなぜか開いていて……

中ではシャワーのお湯が降り注き、
外に湯気が漂う。

「どうしてもイメージが掴めなくて」

俺に見せたのは『ナラタージュ』の台本。

ページを捲ると、俺に差し出した。

「相手役、お願いしてもいい?」


こんな頼み事をするなんて初めてで驚いた。

けど、少しでも役に立てるなら……


俺は書かれている台本を読んだ。


えっ?

このシーンをやるの?


俺たちが付き合って初めてのラブストーリ。

潤はそういうドラマや映画が多い。

ある程度は覚悟したし、
仕事だから仕方ないって思う。


けど……嫌だよ。


「覚えた?」

「うん」

一瞬で覚えた。


記憶力じゃなくて、嫉妬という力。


「じゃぁ……いい?」

俺の手を取ると、浴室に入る。

シャワーのお湯でびしょ濡れになる俺たち。

白いシャツが濡れて透けると
潤の引き締まった身体か見える。

濡れた前髪から切なそうに俺を見つめる。

頬を包み引き寄せると、乱暴に唇を重ねた。

滴るシャワーのお湯と共に、
涙が排水溝へと流れる。

唇を離して上目遣いで見つめると
ぎゅっと抱きしめられた。

「ありがとう、和」

「潤……」

「これで大丈夫」

何が大丈夫なの?

潤は平気なの?


苦しいのは……俺だけ?


「頭に焼き付けたから」

「えっ?」

顔を上げると、
濡れた前髪を掻き分けてくれた。

「好きな人を思い浮かべて、撮影するからね」

にっこり笑う潤くんはやっぱりカッコいい。

「撮影……頑張ってね」


練習なら、いつでも付き合うよ?


嫉妬させることをするのも潤くん……

それを消してくれるのも潤くんだから……


【end】

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