ツインテールの君
第2章 えろかわ。
梅雨も明けて、爽やかな碧落の下を夏の匂いがたゆたっていた。
ロリィタ系メゾン『Failieta Milk』の直営店──…数ある中でもとりわけ繁華街のど真ん中にも関わらず、近隣の喧騒をひととき忘れさせられるような店内は、薄手で色とりどりの春夏服が並んでいた。
長調のクラシック音楽が優雅に流れる中、更級國佳(さらしなくにか)は同期の風島せりは(かざしませりは)と双方パニエで膨らんだスカートの片側が平たくなるまで距離を詰め、ソファの真横にかしこまっていた。
常は客の荷物を預かってばかりのソファは、今日に限っては久しく人間を接待していた。
ピンク色の革張りの座面に落ち着いているのは、ほんの十五分ほど前に見えた、ここの代表取締役だ。
國佳と同じ栗色の巻き髪は天然らしく、臈たけた大人の色香がちらつきながらも化粧映えする少女のようなかんばせは、いつでもたおやかな微笑を湛える。本社の業務に朝から追いたてられていたらしく、装いこそ飾り気のないカットワンピースというものだが、正装したその姿がいかに見事かは想像に難くない。
「有り難う。更級さん、風島さん。私は定例の巡察にお邪魔しただけなので、どうかお構いなく」
「とんでもないっ、花井(はない)社長をいい加減にお迎えなんかしては、ファンのお客様や店長に知られたら、私達、日本海に沈められます」
せりはが、今し方買ってきたペットボトルの紅茶を花井に差し出した。