ツインテールの君
第3章 Decoration cake princess
今年も残すところ僅かとなった師走のある夜、更級國佳(さらしなくにか)の住まいは一角、内職部屋と化していた。
時刻は午後九時を回ったところだ。
赤と白が基調の甘ロリィタの國佳とまるで違う、同期の風島せりは(かざしませりは)もテーブルを一つ挟んだ真向かいで、黙々と針仕事を進めていた。
せりはは一見クールな黒ロリィタだ。それでいて、今宵も二人の勤める『Fairieta Milk』らしい可憐なスタイルを極めていた。
腰まである月色のストレートヘアは、先端にメタルチャームの揺れるピンが留めてあり、得意の化粧が効をなしているのもあるのだろうが、こうして黙って真剣な顔をしているところだけを見ると、この同僚が普段、趣味のオカルト研究のためにシャベルを握ってたった一人で山に入っていくような逞しい人物とは想像つかない。
「まさか、こんなに直前になって切羽詰まるなんて思わなかったわ」
ケント紙にロリィタの姿をした少女のイラストを描く作業をしていた國佳の耳に、数分振りの声が触れた。
「油断したわね。昨年のが上手くいったものだから、今年は思いつきで企画を立てて、準備を始めるまで時間を置きすぎちゃって」
「参加者だって、昨年は定員が少なすぎて応募漏れしたという意見を多数いただいたから、今年は四人から十人に変更。その分、宿の予約に思いの外てこずって、ケーキの手配も景品の準備も大変になったのね」
「だからって、一昨年みたいに豪華賞品の贈呈をたった一人に絞るのも、面白くなかったものねぇ」
せりはの手許には、背中の開いたテディベアがあった。
最終的にポーチになるぬいぐるみは、胴体に綿は入っていない。ファスナーが半分ほどまで縫いつけてあった。