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レモンスカッシュ

第3章 M/O





M side



しんと静まり返った部屋に、
すすり泣きのような音が聞こえるだけ。



「みんながみんな、幸せになれる恋

なんてないんだよ…。」
「嘘だ…。」


相葉くんの声が、
どんどん震えていってる。



何で…?
何でお前はそんなに傷ついてるの…?


だけど相葉くんの顔を見れば、
切羽詰まってて。


何だか聞いちゃいけない気がした。



「想いが通じあって、
一緒にいれることって、凄い事なんだよ?」


震える、だけどしっかりとした声が
俺の胸に響く。


「だからね。ケンカなんてしてる
暇ないでしょ?

うーんと幸せにならないと!」



にかって笑った相葉くんは、強くて、

だけど寂しかった。




そっか。



なぁ、智。

俺たちが2人でいれるのって、
当たり前じゃないんだよ。


きっと色んな人の、色んな想いがあって、


俺たちはここまで来てるんだ。




「こんなとこで、飲んでる場合
じゃないんじゃない?」


全てを見透かしてるような顔。


悔しいけど…事実だし。



「ごめん。俺、行かないと。」
「うん。そうしなよ。」



急いで帰り支度をする俺を、
優しく見守ってくれる相葉くん。


バタバタと走る俺を、くすっと笑って
玄関まで見送ってくれる。



「俺から押し掛けたのに、ごめん。」

「いいんだって。

言ったでしょ?
好きな人の幸せは、俺の幸せだって。」


そう言って笑う相葉くんは、
さっきの弱さなんてなくて。


綺麗で、

思わず見惚れた。





って、


「え?…好きな人ってー…。」
「はいはいはい。

ほら、早く帰らなきゃ、ね?」
「わ、ちょっ…っ。」



ぐいぐいと俺の体を押す。


細いのに、
どっからそんな力が出てくんだよ…!



「はい、じゃあね!」
「ちょっとー…。」
「ばいばーい。」


扉が閉まる、数秒前。


雅紀の口だけが動いた。



…雅紀。

…ありがとう。




『 好きだよ』





みんなが幸せになれるなんてない。



だけど、その分。

俺は智を愛していくから。

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