レモンスカッシュ
第4章 M/A
ガラガラとワゴンが運ばれる音がして。
「ハッピバースデートゥーユー」のうたが響いてて。
…え、俺に、だよね?
周りのスタッフさんや、お客さんも一緒に手を叩いてくれていて。
バースデーケーキを乗せたワゴンと、
それを運んできた二宮と、
…その横から着いてくる、サックスを弾いてる雅紀。
「…え?」
俺の隣までやってきた二宮がにっこりわらって、
雅紀は頑張ってサックス弾いてて…
なんだか、
…感無量。
雅紀のサックスは、俺がお下がりであげたやつで、
たまに独学で練習してるのは知ってたけど、
こんなに上手くなってるとは知らなかった。
「先生、ハッピバースデー!」
サックスを弾き終えた雅紀が俺を見ながら笑顔で言うと、
周りから一斉に拍手が起こって。
「あ、ありがとっ…」
不覚にも涙が出ちゃって…
「うっわせんせー泣いてる」
小声で二宮に揶揄われた。
その後、無事に店を出てきて。
ちょっと酔っ払って火照った身体を冷ますように、
夜道を雅紀と二人で歩く。
「雅紀、ありがと。」
「ううん、にのりんに相談したら、『ウチの店なら協力できるけど?ただし今度おごってね、せんせーが』って言われて。」
「俺かよw」
「だから、お願いしたの。」
「うん、すげー良かった。」
「ふふ」
8月30日の空には、
月が綺麗に出ていた。
「…月が、綺麗ですね…?」
「ふふ、死んでもいいわ?」
「いや、死ぬなよ』
「先生となら死んでもいいかも」
「ダメ。絶対。」
「なんの標語?それ。」
ふふっていう笑いが可愛くて。
そっと抱き寄せた。
「なぁ、雅紀」
「ん?」
「…好き。」
「先生、俺も。」
「…俺も、何?」
「…好き。」
ふふ。
酔っ払ってると、ちょっと素直な雅紀。
かーわいい。
「ねぇ、先生。」
「ん?」
不意に真面目なトーンになった雅紀がしゃべりだして。
「帰ったら、話、聞いてくれる?」
「え?」
「…俺の、昔話。」
昔話…
「先生の誕生日に話すなんて、ダメなのかもだけど…
でも、今日話さないと、…いつ話していいか、わかんないから。」
「うん。聴かせて?…雅紀の、話。」