
泣かぬ鼠が身を焦がす
第3章 枕
禁欲記録の日数が二桁に達しようかってくらいになった頃、思わず伊藤さんに聞いてみた
「伊藤さん」
「はい?」
今日も会社に少し顔を出したら色んなところうろうろして、そのまま家に帰るって予定を伝えた伊藤さんは手帳を閉じて俺に目を向ける
「杉田さんともう何日も会ってないんだけど……」
「そうですね。特に今は忙しい時期ですので、仕方ないかと」
「えぇぇえ?そうなんだぁ」
じゃー1ヶ月くらい我慢しなきゃなのかなぁ
会っても挿れてくれるわけじゃないのにさ
しゅーん、とクッションに埋もれる
「……あ。そうだ。杉田さんに伝言お願いできますか」
「? はい、承ります」
「なんか、抱き枕とかぬいぐるみとか、抱っこして寝れるようなもの買ってって伝えてください」
あ、呆れた顔してる
すっごいきょとんとしてる
わかってるもん
俺の歳でそんなこと言う奴いないって
いいもんいいもん
「ふっ……寂しいんですか?」
「え……」
笑った
「さ、寂しくはない、けど……癖っていうか」
「畏まりました。お伝えしておきます」
「……ん……おねが、します……」
この人も笑うんだ
笑った理由が俺の抱き枕ってのが、なんか気に入らないけど
