
泣かぬ鼠が身を焦がす
第22章 一に看病、二も看病
俺は離れ行こうとする拓真さんのスーツの裾を掴んだ
「? どうした?」
「……」
傍にいて、って
言えばいい
一言だけなんだし難しくない
「……」
でも俺の口からは何も出なくて、ぼーっと拓真さんを見つめたまま服を掴んでるだけ
「?」
どうしたらいいかわからない、という顔をした拓真さんが俺に何か声を掛けようとした瞬間扉がノックされた
「! なんだ」
「社長、そろそろお時間です」
「……あぁ、わかった」
扉の外からは伊藤さんの声
お昼休憩の時間に来てくれたのかな
俺のところになんか来て、ご飯食べる時間ちゃんとあった?
……仕事の邪魔しちゃいけないな
俺がする、と裾から手を離すと、拓真さんはまだ何か言いたげだったけど何も言わずにちょっとだけこっちを気にして部屋を出て行った
行っちゃった
あーあ
あーいうところで素直になれないんだから、俺って損してる
でもなー……最近休ませてばっかだったし
今まで休みなかったのに比べたら、仕事溜まってるよなぁ
朝も考えたことをもう1度考えて、自分が素直になれない言い訳にする
夜だ
夜帰って来たら、奇行に出た理由をちゃんと言う
