逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~
第2章 揺れる心
「何だかさ、やけにそわそわしてたり、かと思ったら、ボーっとしてたりしてるの。今までなら、絶対にあんなことなかったよ。萬里が話しかけても、ろくに返事しないんだよ?」
萬里の声だ。話題が自分のことだけに、萌はその場に脚を縫い止められたまま動けなくなった。
「何だ、そんなつまらない話をしたくて、わざわざ後片付けを引き受けたのか?」
史彦の低い声が応えている。
「つまらなくなんかないよ。パパ、しっかりしなきゃ。奥さんがそんな風に心ここにあらず状態になったら、浮気してるって言うよ」
萌は、いきなりの科白に度肝を抜かれた。十一歳の子どもの発言とは思えなかったからだ。
それは史彦も同じだったようで、やや高めの声が聞こえた。
「何だ、お前、どこでそんな話を仕入れてきたんだ?」
「テレビのワイドショーでやってたよ。〝妻の浮気発見方法〟とかっていうヤツ。この間、パパとママ、二人で熱心に見てたじゃない。私と芽里がアニメを見たいっていうのに、あんなつまらないワイドショーのせいで見せて貰えなかったんだよ」
最後は、いかにも子どもらしい拗ねた口調に、思わず微笑みが浮かぶ。そういえば、そんなこともあったと今更ながらに思い出す。
思い出し笑いを堪えている萌の耳に、史彦の抑えた声が聞こえてくる。
「くだらんことばかり言ってないで、もう寝なさい。ママにだって、パパやお前たちにも言えない心配事の一つや二つはあるだろう。考えてごらん、萬里。子どものお前だって、誰にも言いたくない話はあるはずだ。大人っていうのは、子どもが考えるほど楽な生きものじゃないのさ」
「―ねえ、パパ、ママは大丈夫かな?」
不安げな声に胸をつかれる。
娘を安心させるような夫の声が響いた。
「大丈夫さ、萬里のママは、しっかりした女性だ。今は何か悩みがあって沈み込むことが多くても、また元気で明るい元のママに戻るよ」
「うん、判った。ママが元気になるまで、萬里はちゃんと待つよ。おやすみなさい、パパ」
萬里の声がしたので、萌は慌ててキッチンへと駆け戻る。ほどなく階段を登る脚音がして、二階の子ども部屋のドアの閉まる音が響いた。
萬里の声だ。話題が自分のことだけに、萌はその場に脚を縫い止められたまま動けなくなった。
「何だ、そんなつまらない話をしたくて、わざわざ後片付けを引き受けたのか?」
史彦の低い声が応えている。
「つまらなくなんかないよ。パパ、しっかりしなきゃ。奥さんがそんな風に心ここにあらず状態になったら、浮気してるって言うよ」
萌は、いきなりの科白に度肝を抜かれた。十一歳の子どもの発言とは思えなかったからだ。
それは史彦も同じだったようで、やや高めの声が聞こえた。
「何だ、お前、どこでそんな話を仕入れてきたんだ?」
「テレビのワイドショーでやってたよ。〝妻の浮気発見方法〟とかっていうヤツ。この間、パパとママ、二人で熱心に見てたじゃない。私と芽里がアニメを見たいっていうのに、あんなつまらないワイドショーのせいで見せて貰えなかったんだよ」
最後は、いかにも子どもらしい拗ねた口調に、思わず微笑みが浮かぶ。そういえば、そんなこともあったと今更ながらに思い出す。
思い出し笑いを堪えている萌の耳に、史彦の抑えた声が聞こえてくる。
「くだらんことばかり言ってないで、もう寝なさい。ママにだって、パパやお前たちにも言えない心配事の一つや二つはあるだろう。考えてごらん、萬里。子どものお前だって、誰にも言いたくない話はあるはずだ。大人っていうのは、子どもが考えるほど楽な生きものじゃないのさ」
「―ねえ、パパ、ママは大丈夫かな?」
不安げな声に胸をつかれる。
娘を安心させるような夫の声が響いた。
「大丈夫さ、萬里のママは、しっかりした女性だ。今は何か悩みがあって沈み込むことが多くても、また元気で明るい元のママに戻るよ」
「うん、判った。ママが元気になるまで、萬里はちゃんと待つよ。おやすみなさい、パパ」
萬里の声がしたので、萌は慌ててキッチンへと駆け戻る。ほどなく階段を登る脚音がして、二階の子ども部屋のドアの閉まる音が響いた。