テキストサイズ

逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第6章 Tomorrow~それぞれの明日~

 子どもの頃から、よく真面目な良い子だと言われ続けてきた。勉強にしろ、遊びにしろ、とにかく与えられた課題を計画を立てて、少しずつやり遂げることに歓びを感じ、また、それが達成できないときは、大いに自己嫌悪に陥ったものだ。
 しかし、そんな自分は、友達の眼にも真面目だけが取り柄の、面白みのない人間に映っていたのかもしれない。そう思うと、更に落ち込んでくる。
「どうかしましたか?」
 低い深みのある声音が耳を打ち、萌は眼を見開いた。
 祐一郎が少し心配そうにこちらを見ている。
「いいえ」
 萌は、たとえいっときとはいえ、あれほど夢中になった男性が今、自分の眼の前にいるという現実を俄には受け入れられないでいた。
「良い式でしたよね」
 祐一郎が突然、話題を変えた。萌が塞いでいる原因にはそれ以上、触れないで貰えたことは素直に嬉しかった。
 萌は小さく頷いた。
「派手な演出もなかったけど、その分、主役の二人の優しさというか、招待客へ心遣いが感じられて素敵だったと思います」
 三時間にわたる披露宴の間、新婦のお色直しは二回、両親への花束と手紙贈呈以外には、全く凝った演出はない、ごくシンプルな式だった。招待された萌たちは、ほどよく絞られた音楽を聴きながら、次々に運ばれる食事と他の人との会話を愉しんでいれば良かったし、披露宴にはお決まりの何人もの賓客のうんざりとしたスピーチを聞かされることもなかった。
 招待者の席には、予め、新婦お手製のシフォンケーキの入った箱がセッティングされ、銀色のリボンで可愛らしくラッピングされていた。箱の上には、毛筆は八段の腕前だという新郎が筆で書いた簡素なカードが添えられていた。
 私は十四年前の自分の結婚式のことを思い出して言った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ