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捨て犬

第15章 目、つむって・・・

俺がパンを食べ終わると
それが合図だったように
エミは振り向き

俺に抱きついた。



バイトに行き始めた
あの時のように

強く、しっかしと。



髪や背中をなでながら

俺は
エミを癒す。



もう

ずっとこうしてたい・・俺。




「エミ・・
パン焼いてたから
昨日電話でなかったのか?」



「・・うん・・」



くぐもった声が

俺の鎖骨に響く。



「そうか・・・
そうだったのか。

なぁ、パン焼きたかったから
バイト行ったのか?

俺いないのに…」



「・・・ん・・」



「よく頑張ったな
うれしいよ、俺」


返事をしないエミは
その代わりに
俺の首元に頬をすりつけ
まるで
親に褒められた
子供のように甘えた


「俺に…パン食わせたかったの?」


エミは
黙ったままうなずいた


「なんで?

なんで・・・

そんなに俺のために
頑張ってくれたの?」




聞きたくて

その答えが聞きたくて
我慢できなかった。


聞いたら
後悔するかもしれないのに。



エミから
「好き」
って言葉を
どうしても聞きたくて


胸が


痛いんだ。




「なんで?エミ?」







「・・・・・・」





それから俺は

エミを抱きしめたまま

タバコを一本吸った。




けど


エミの返事はなかった。










気にしてねーよ

そんなに…。




分かってたから




こーなるって。




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