方位磁石の指す方向。
第4章 scene 4
噂はすぐに広まった。
『二宮さんちの奥さんは
浮気している。』
…うわき?
うわきってなんだ?
…母さんが?
そんなことしないでしょ?
何度も聞いた。
だけど、母さんは、
「…もうだめ。」
としか言わなかった。
そんな、壊れた機械のような
母さんが怖くて、
家を飛び出した。
「千晴!…千晴っ!」
千晴の名前を呼んだ。
何回も、何回も。
…そうだ。
千晴は今、塾だ。
いつもの塾だ。
俺は駆け出して、
千晴の通う塾へと
走り出した。
ぞろぞろと生徒が出てくる。
その中で、千晴を見つけた。
「千晴…っ」
俺は笑顔で千晴に
駆け寄った。
そうしたら、
千晴の顔から笑みが消えた。
ぞくっとした。
「ち、ちはー…」
「和也、出待ちとか
気持ち悪いよ…」
それだけ言って、
俺の横を通り抜けた。
「ち、千晴っ、なぁ、待てよっ!」
腕を掴んだら
振り払われた。
…え?
「…触らないでよ!
私に関わらないで!」
…なんで?
なんでそんなこと言うの…?