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僕の大事な眼鏡さん。

第2章 もしよかったらご飯、食べませんか?

「風間さん。土曜日はありがとうございました。」

 眼鏡さんはお会計の時、お釣りを受け取りながら僕に話しかけてきてくれた。

「いえ。帰り道だし、たいしたことないです。」

 もっと話したかったけど、何人かレジに並んでしまい眼鏡さんも軽く頭を下げて店を出てしまった。

 あーあ。でも、お釣りを渡した時にちょっとだけ触れた手の感触が残ってる。少しだけ柔らかい手のひら。

「あ、今のお客様、携帯忘れて行っちゃった。」

 カウンターを片付けていた、絵里ちゃんがドアに向かう。眼鏡さんの携帯だ。駆け出そうとしたけど、静止した。

「絵里ちゃん、駄目だよ。僕が走るよ。」

 絵里ちゃんから携帯を受け取り、ダッシュする。絵里ちゃんは妊婦さんで、あと二ヶ月したら生まれる予定。そんな、人に走らせるなんて出来ません。

 僕は店を出て、眼鏡さんの勤める会社の方に走った。

 サラリーマンやOLを走って追い越し、遠くに眼鏡さんの後ろ姿が視界に入った。

 手を伸ばして、肩を叩く。

 向こうはびっくりして、勢いよく振り向く。

「…はぁ、さ、佐伯さん…。」

「はっ。はいっ。」

 息を切らして、追い付いたことに安堵する。久々に走ったな…。
 肩で息をして、なかなか言葉が出てこない。

「あっ、はぁ、あの…これ。」

 やっと、差し出した携帯。

 眼鏡さんは目を細めて笑いながら受けとる。

「…ありがとう。風間さん。」

 ああ、ヤバイ。何度も言うよ…めちゃくちゃ、可愛いっ。

「い、いえっ。あっ。そうだ…。」

 このままの勢いなら、今なら言える。

 言ってしまえ。

「もしよかったら、今度、ご飯でも食べに行きませんか?!」

 おっしゃー。言ってやったよ。

 眼鏡さんは、少しだけ考える。困った顔も素敵だな。ああ、もう、どんな仕草も可愛いし、素敵です。

 結構な沈黙の後、優しく微笑みながら。

「…はい。じゃあ、都合の良い日、連絡します。えっと、携帯の番号と…。」

 と、言いながら手帳に携帯番号とメアドをサラサラっと書いて僕に渡す。
 
「時間のある時、空メールでもいいので下さい。折り返し、連絡しますね。」

「あ、ありがとうございます。」

 僕はもらったメモを握りしめる。

 眼鏡さんと別れて、喫茶店に戻る。もう、仕事なんか手につくはずもない。鼻歌で一日が終わる。

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