びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】
第1章 かりそめの遊艶楼
外に出て、後ろを振り返ると
全員が扉の近くにいて
泣きながら笑顔を作ってくれていた
最後の別れを明るいものにしようと…なんて優しい子達
「ありがとう皆…
私は一生忘れは致しません、ここを
皆の素敵な笑顔を…」
「私も、忘れは致しません
幸せに…ただそれだけを願います」
奏月の言葉に慧が飛び出してきて
ぎゅっと抱き付いていた
「奏月様…」
聞こえてきた"ありがとうございました"という感謝の言葉
それに奏月は泣いてしまって…
こちらを向いた慧と視線が合った私も泣きそうになってしまった
「…慧にもいつか…」
そう言うと慧は微笑んで皆の元に戻っていった
「お元気でー藍姫様!奏月様!」
温かい子供達の言葉を受けながら私達は
育った"家"を後にした
「奏月とはここでお別れですね」
「はい
藍姫様、お元気で」
「えぇ奏月も
櫻井様、奏月…和也をよろしくお願い致します」
「あぁ全力で守るよ」
和也の肩をしっかりと抱いて、逞しいお顔をされた
この方なら大丈夫
幸せにしてくださる
「じゃあな
潤、ちゃんと幸せにしてやるんだぞ」
「うん、翔くんもしっかりね」
櫻井様の車が動き出して、和也側の窓が開く
「あい…智様!松本様!
ありがとうございました!」
「こちらこそっ…」
見えなくなるまで和也はずっと手を振り続けていた
「……」
「智…」
「…参りましょう」
楼を出て、和也と別れて…心にぽっかりと穴が空いてしまったような不思議な感覚
「お姫様、どうぞ助手席へ」
「…ふふ」
その穴を潤様の笑みが埋めてくださる
「私は男ですよ?」
「だって藍姫でしょ?」
「…もう…藍姫はおりませんよ」
持ってきた荷物の中に眠る着物と一緒に…
"藍姫"も眠ったのです
「僕は…智です」
そう助手席に乗り込む僕を見て、潤様はクスッと笑われた
運転席に乗り、シートベルトをして
「そっかー智かー」
僕のシートベルトもしてくださった
「じゃあ智」
「はい」
「その敬語も、もういらないね」
「……」
そっか…
「よし、行くよ?」
僕は智…
「………うん!」
普通の智だ
「愛してる智」
「僕も…潤さん」
愛してる…
ずっと
いつまでも…