テキストサイズ

異彩ノ雫

第73章  intermezzo 回転木馬 ~真珠色の月と




まわる まわる 回転木馬
月夜の晩にお乗りなさい
ひとときの夢を見るでしょう…



その瞳に映る一頭の木馬は
純白の馬体に
うねるようになびく銀のたて髪

『また来たのか、坊や』

少年は月の満ちゆくこの数日
深夜零時に現れる

『誰が教えたか知らないが
奇跡はたやすくは起きぬもの…』

少年はしばし手すりを握りしめ
目を凝らし彼を見つめては
小さなため息を残し帰りゆく


……月の輝く夜
天馬となりて空を翔けるぞ
あの木馬は…!
それは他愛のない言い伝え

けれど…


月満ちた夜少年は
意を決して彼に近づく

── ねえ、翔んでいいよ
もとの空に帰るがいいよ
おまえは自由だ

彼の首に細い腕を回し
精一杯の背伸びでささやく言葉は
彼の長年の呪縛をといた

『坊や
戒めは今、解かれた!
天を翔けることは叶わぬが
地の限りまで駆けゆこう』

彼は少年を背に
大きく身震い一度 前肢を高々と上げ
たちまちに虚構の飾りを振り捨てた


蒼い夜空に
真珠色の月が冴える夜は
白い疾風が街中を駆け抜ける







(了)


ストーリーメニュー

TOPTOPへ