テキストサイズ

異彩ノ雫

第97章  五ノ月 ③




浅葱色の封筒を開けると
ラベンダーがかすかに香った

── 君はこれをどこで書いたのだろう

薄紙の便箋にコバルトのインク
見慣れた華奢な文字には
ところどころに雫の名残り
君の言葉が濡れている…

── 何を想って書いたものか

明るく旅の景色を伝える言葉も
胸を揺さぶる風になり
知らず知らず 旅支度に手がかかる

── 今すぐ行くよ

けれど
結びに書かれた一言が
待つ身に心を引き戻した


夜行列車の着く朝には
改札前で君を抱きしめよう
帰る場所はあなたのもと…
そんな君の言葉ごと この腕の中に







【ひとり旅】


ストーリーメニュー

TOPTOPへ