
異彩ノ雫
第184章 intermezzo ~雛遊び幻想
── あなたは だあれ?
無理もないわね…
だって会うのは三十年ぶりぐらいだもの
── 白酒で酔ってしまったお嬢さん?
そうそう
あの時はちょっと大騒ぎだったわ
でもね
皆の声が遠くに聞こえて
とても気持ちよかったのよ
澄まし顔の黒髪を撫でれば
胸の中
愛しい日々が満ちてくる
変わってしまったわね
何もかも
もちろん、私も…
── 変わらないわ
髪を撫でる手の温かさも、
話しかける心の色も…
思いがけない言葉に
心がほどけ 涙が溢れる
泣きたくて
今日来たわけではないのよ
ただ…
かすかに薫る桃の花
女雛の顔は優しくほころび
宴の夜に月が浮かぶ
(了)
