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影に抱かれて

第2章 月と太陽

驚いたリュヌが振り返ると、そこには声の主であるフランクール伯爵が立っていた。そして伯爵の、ジュールと同じ深緑色の瞳は興味深そうに地面に向けられている。

あんなところに何が……そう考えたところで、リュヌはあることを思い出して耳の先まで真っ赤になってしまっていた。ジャンが来る前に、木の枝と地面を使って文字の練習をしていたものを消し忘れていたのだ。

リュヌが文字の勉強をしていることを知っているのはジュールだけだったから気恥ずかしかったし、地面に枝で書いたそれは、大人から見たら落書きにしか見えない代物に違いない。

「あ……その、えっと……」

真っ赤になり口ごもるリュヌの視線の先には使い古した鞄があり、そこからは、ジュールが幼い頃に使っていた教本がはみ出している。

それはジュールに頼んで譲り受けてから、何度も読み返しては書きなぞっている……リュヌの宝物だった。

視線を辿ったジャンもそれに気付き、リュヌの顔を見ながら教本に手を伸ばす。

「これはジュール様の……。お前は勉学がしたいのか?」

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