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影に抱かれて

第14章 滅びる運命

女がいなくなった今も、この塔は近付きたくない場所だった。しかし、今はそんなことを気にする余裕もなかった。

じっとしていたら気が狂ってしまいそうだ。

「やれやれ、嫉妬とは恐ろしいな……伯爵夫人にはもう見えない。嫉妬は墓のように残酷だ……とはよく言ったものだ」

聖書の言葉を口にしながら、冷たい石の階段をジュールは悠々と上る。しかしジュールの心にはこの時も神は宿っていなかった。

ジュールが最後の階段を上り切ったその時、一足先に部屋に入った夫人の口から叫びが漏れる。

「どこ……あの女はどこなの?!」

そこには何もなかった。
人などいない。

あるのは薄汚れた祭壇のようなものだけだ。そこに、開け放たれたままの木戸から雨が吹き込んでいる。

雨風に晒された木製の母子像は、もう朽ち果てようとしていた……

「どうかな……屋敷の方に行ったのかな? 僕の部屋に……」

屋敷と聞いて、木戸にしがみつくようにして外を見る夫人を見下ろすジュールの目は冷めきっていた。

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