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影に抱かれて

第18章 エピローグ

あれから二年の月日が経った。

リュヌとイネスの手で見事に再建された庭園では、フランクール家自慢の薔薇が今日も美しく咲き誇っている。そしてその真ん中で楽しそうに花の世話をする母の口元からは、あの子守歌が聞こえていた。

「月の光のもと――ピエロさん、ペンを貸して頂戴な――」

降り注ぐ太陽のもと、花々に囲まれながら無邪気に歌う母を、リュヌは眩しい想いで見つめた。

「母さん……いいお天気だね」

「――蝋燭が消えてしまったんだ――お願いだから扉を開けておくれよ――」

「母さんのお陰で、ここもすっかり元通りみたいだ。天国の旦那様も……喜んでくれるかな……」

何も知らず、そして皆が幸せだったあの頃……
ここで笑い合っていた伯爵とジャンはもういない。

そしてリュヌの問い掛けに対する返事が母から返って来ることも無かった。

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