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影に抱かれて

第4章 雲に隠れて

「はっはっは……リュヌ、一体どうしたんだ? そんな顔をして……」

「え……?」

驚いて顔を上げると、ジャンも明るい声を出す。

「リュヌ、旦那様はお前に素晴らしいお話をしてくれようとしているんじゃよ」

ホッとしたリュヌだったが、そこで初めてジュールが声を上げた。

「余計なことを言うな! 素晴らしいかどうかなんて、リュヌが決めることだろうっ」

「まあ、ジュールっ、貴方という人は……! 口を慎みなさい!」

大きなジュールの声を、さらに大きな声でヒステリックに夫人が掻き消す。

自分のせいで、大好きなジュールと奥様……それにジャンも、何かを言い争っている。一気に胸が締め付けられるように感じるリュヌだったが、そこに伯爵の落ち着いた声が重ねられた。

「そうだ、ジュール。リュヌが決めることだ。お前が決めることではない」

いつもジュールには甘い伯爵の威厳ある態度に、ただ事ではない事だけは確信し、リュヌは背筋を正して勧められた椅子の端にちょこんと座った。

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