ビタミン剤
第30章 ムテキのヒーロー
Oside
「翔ちゃん…翔ちゃん?」
今回はなかなかの重症みてぇだ。
呼んだって返事もねえし、まず視線が全く合わない。
張り詰めてた糸が切れた翔ちゃんは
まるで糸の切れた操り人形。
生気のない眸はきれいな硝子細工みたいで
そこにまぬけなおいらの顔が映り込んでる。
しゃーねぇよなぁ
楽屋で、翔ちゃんには不本意だろうけど
強行手段を取らねえと、これから収録だからな。
本番迄にはなんとか使い物になる翔ちゃんに
なってもらねえと。
俺ら4人いたってまともに進行とかできねぇし
みんなが翔ちゃんのこと頼りにしてるから。
とりあえず、おいらんとこへ戻っておいで。
ちゃんとしたケアは家に帰ったらゆっくり
してやるからさ
ソファに座ってる翔ちゃんをぐっと抱き寄せて
両腕に力を込めて抱きしめた。
何度も何度もやわらかな声で
翔ちゃんの名前を呼んで鼓膜の奥に響かせる。
「翔ちゃん…翔ちゃん、……翔ちゃん」
繰り返し呼び続けてやる。
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