兄達に抱かれる夜
第8章 君は誰かな?
環side
「環ちゃん、また明日ねぇ〜」
「今度、一緒にケーキ食べに行こうね、約束だよ〜」
「うん、行こうね〜」
笑顔を振り撒いて、女の子の友達に手を振って別れた。
公立高校の可愛い制服、女の子の友達。
僕は土御門家の当主の指示通りに、女の子として、学校へと通わせて貰っている。
校門の前で土御門家の車が迎えに来ていた。
運転手が僕の前でドアを開けてくれた。
「どうも、ありがとう」
にっこり笑顔を向けると、運転手の顔がほんのり赤らむ。
キモいな、このジジイ。
無駄に笑顔を振り撒いた事を後悔して、内心舌打ちする。
車に乗り込んで、走り出す車の中で、ぼんやり外の風景を見つめる。
学習院高等学校の近くを通り、つい探すように見てしまう。
恵麻も僕と同じように、運転手が迎えに来て、車に乗って帰る筈なのに。
いるわけなんか、ない。
薄茶色のブレザー、赤いリボン、フワリと風に揺れるスカートは、薄茶色と黒のチェックで可愛い制服だと、有名だ。
風に揺れるスカート、長い黒髪、ぴんと伸ばした背中。
後ろ姿だけで、分かってしまう、存在感。
目を惹いてしまう、オーラを放って、女の子2人と、男の子二人に囲まれて、笑いながら、歩いている。
有馬の運転手は馬鹿なの?
あんな可愛い存在、野放しにしてしまって、何かあったらどうするつもりなんだろう。
ってか、それは僕にも言える訳なんだけど。
恵麻の傍を通り過ぎる、車。
「ごめんなさい、少し用事を思い出して、止めて下さる?」
「そちらまで、お連れしますよ?」
「いえ、そうじゃなくて、下ろして頂きたいんですけど……」
「申し訳ありません、奥様からすぐに迎えに行くように、言われてますんで、すぐに帰りませんと……」
「はい、そうですね、すいません」
普通の運転手なら、こうなる筈だ。
それなのに、何故恵麻は、見ろよ、あの男、馴れ馴れしく恵麻の肩を触ってるじゃないか。