臆病者のタイミング
第1章 臆病者のタイミング
「あっち、行こか?」
しばらく私を抱きしめた後
周平はいつもこうして
私の手を握り
奥の部屋へと移動する
優しく
ゆっくりと
二人でソファに腰を下ろすと
今度は
何も言わないまま
周平は私を優しく抱き寄せてくれた
「なんか、あった?」
優しい・・・。
本当に優しいと思う。
泣いてしまいそうなほど
・・・・・好き。
「う、ううん。
ごめん、理由はなくて・・」
「かまへんよ。
あるよなぁ…そういう時。
なんか妙にぎゅ~って
されたなったりするねんな…」
5 歳も年下とは思えない周平の
優しく私を包むような言葉に
胸が熱くなる
「詩織ちゃん・・遠慮してる?」
「・・え?」
「前はもっと電話くれてたし
愚痴も言うてくれた。
淋しなった理由も
話してくれたりしてたやろ?
最近、あんま話してくれへんやん」
周平の背中に回した手に
私が少し力を込めると
周平はグッと私を抱き寄せて
耳元に顔を埋めた
『周平に会いたかっただけ』
なんて・・・
言えないじゃない
「ほんとに・・・
理由なんてなくて
ただ・・なんとなく
淋しかっただけだから・・」
「そうかぁ・・・」
抱きしめるだけ。
髪を撫でて…背中をさする
それだけの関係。
周平の
女性関係や仕事の悩みを聞いたり
アドバイスをしたりする私は
周平の姉のような存在
「俺は詩織ちゃんのこと
なんでも聞いてあげたいんやけどな・・」
年上の私を
周平は詩織ちゃんと呼ぶ
くすぐったいけど…
そこも
好き。
「でも…つまらない話だし
愚痴ばっかり言ってたら
周平に嫌われそう(苦笑)」
「嫌ったりせぇへんよ」
「ありがとね」
そうよね…
『好き』じゃないんだもの
『嫌い』にもならない。
でも私は…
嫌われたくないの。
せめてこの関係を
手放したくない。