君を好きにならない
第10章 帰る場所
真琴が選んだ映画は
わりとベタな
ラブストーリーだった
最初から「死」が
みえてるシナリオで
実はあまり好きではない
真琴には
申し訳ないが
連日の残業と運転
それに満腹で
俺は序盤から
ウトウトしていた
どのくらい時間がたっただろう
小さな声で
真琴が俺を呼んだ
「ムカイサン・・」
「・・?」
「ちょっと
手、借りていいですか?」
「は?」
頭がぼんやりしてて
意味がわからない
すると真琴は
「実験」
って言ったかと思うと
俺の手を握りしめた
人気の映画だが
平日ってこともあって
場内の客は少なく
もちろん暗い
でも
男同士だ
「バレたらどうすんだよ」
「大丈夫」
「なんで」
「僕の友達
普通にやってたし」
「・・・」
真琴と
耳元で囁きあうと
さっきの決意が
崩れそうだ
どんなに
俺が
作家先生だと
認識しようとしても
真琴は
俺のバリアを
いとも簡単に破ってしまう
「やってみたかったんで」
多分
元恋人のリョウコちゃんと
こんなことすら
したことがないんだろう
真琴は
まっすぐスクリーンを見つめながら
俺の手を握ったり
指でなぞったり
恋人つなぎをしたりした
しばらく
そんなことを
されるがままになった後
真琴は
「ありがとうございました」
って囁いて
俺から手を離した
もう・・終わりか。
残念だが
真琴から
俺に触れてくれたことに
少しホッとしていた
もう
俺とは接触したくないと
思われてるんじゃないかって
不安だったから
「向井さん・・」
「ん?」
今度はなんだ?
真琴は
さっきよりもっと
俺の耳元に
顔を近づけ
静かに
囁いた
「僕
向井さんが
もし
男の人を好きでも」
えっ……
「全く何も
気にしないし
今まで通り
頼りにしてますから」