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月の降る夜に

第1章 その出会いは日常の崩壊

三人で、とは言っても女官が一緒だ。

目隠し鬼をして、宝探しをして、沢山遊んだ。

疲れたのでおやつにしよう、というときに、一番下の弟が唐突に訊いてきた。

「あねうえのかみは、なにゆえそのようないろなのですか?ひとみもぼくやあにうえとはちがうのです。おとぎばなしの異形のものなのですか?」

好奇心いっぱい、というキラキラとした目を向けられて、小さい子というのはこんなに無邪気なものなのか、と思った。

髪の色も瞳の色のことも、気にしていた私にとってその質問は酷なもので。

いつもは女官も直ぐ下の弟も気を遣って訊かないでおいてくれたことだから、こんなにも傷つくものと思っていなかった。

母の不貞によるものではないか、とかいろんな噂が囁かれているこのこと。

私にだってわからないのにどうして私に訊くの?

表面では笑っていたけど、心は泣いている気がした。

■□◆□■

連れ帰った少女はあどけなく己の傍で眠っている。

まとめてあった栗色の髪が乱れて敷布に散らばるさまに色気を感じてしまった。

こんな小娘に。

そんな自分が信じられない。

改めてじっくりと少女を観察してみる。

紫という高価な染料で染められた絹の羽織。

藤色のガラベーヤのようなひらひらとしたスカート。

短い上衣。

顔にかかっている髪を払ってやろうと体制を変えると、目の端でちらっと何かが動いたような気がした。

もう一度同じ動きをするとその正体がわかった。

紫の羽織の背中に角度によって見える模様が織り込まれていたのだ。

"君子蘭"

黎明(リーミン)の王家の花だ。

「………これは思わぬ拾い物をしたな」

この花を身につけたり、模して持つことは直系にしか許されていないと聞く。

ということはこの少女は公主だというわけで。

公主を人質に取ればこの戦争を止めるという大きな手柄が挙げられる。

それだけでなく、この娘を自分のものにすれば、俺の継承権も上がる。その純粋な王族の血故。

国交を開かせることも可能であろう。


無理やりにでも手に入れればよいのだろうか。

意思とは関係なく身体だけ。

相手は蝶よ花よと育てられてきた公主だ。

ちょっと乱暴にしたら直ぐに従うだろう。

うつ伏せになっている体を仰向けに返して、


両の腕を重ねて頭上に縫い止めた。

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