隣は空席のまま…
第8章 不安と天秤
“どうしたらいいか…解らない”
本当にそれしか私の口からは出てこなかった
産めない――――…産めない…
そんなことは解っている
でも、堕胎すると――――言えない
殺せない
堕胎――――出来ない
沈黙が続く…
「蔵主さん――――…妊娠2ヶ月と、解りやすく言いましたが…
妊娠4週目の…初期の段階です――――…
今は、点…と言うか小さな塊に見えるかもしれませんが…来週…再来週には…人の形を見せ始めます――――…決断をするのは難しいかもしれません
でも、産めないなら――――…答えは早くした方が…良いと思うんです」
「――――…ぇ…」
うつむく私に、先生は声を詰まらせながら言う
苦しそうな言い方に…
私は顔を上げた
「――――…先…生…」
辛そうな顔をしている…
本来なら…綺麗な先生なのだろ…
だが…その顔は――――…悔しさと不安と憤りの混ざった表情で
お世辞にも綺麗な先生なんて…思えなかった
多分…私も――――…醜い顔をしているのだろう