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かごのとり ~ 家出娘の家庭事情 ~

第19章 愛してるから・・・さようなら

『はなして・・・』




俺は怒鳴った勢いで
マリアを後ろから抱えるように
抱きしめていた







『早く…別れちまえばいいじゃねえか

あんなイカれた旦那・・・』





それが出来ない現実と
マリアのその苦労を

少なからず俺も
目の当たりにしていたのに





こんな事を言えば言うほど
マリアを苦しめるだけなのに



例えばどれ程取り乱していたとしても
それくらい俺にも
わかっていたはずなのに…






もしも・・・立場が逆だったら






俺に嫁さんがいて
残念ながらその人とは
別れたいと望んでいたとして



相手は中々別れに同意せず
そんな中に出逢った人と
一緒になりたいと望んだ



そんな狭間にもみくちゃにされる中
不義が発覚すれば

相手も自分自身も…多くを
全てを失うやもしれない



そんな全てから
自身と相手を守りながら
ひとつひとつ階段を登っていくような


そんな重く苦しい一歩一歩は
どれほど重圧だろうか







たまたま…相手がいたのが
マリアだっただけ


マリアと出逢った俺が
たまたま独身者だっただけ



俺にマリアを責める資格なんかない



俺にはそんな資格・・・どこにもない







なのに俺は

緊張の糸でも切れたかのように

マリアにぶちまけていた











『物事の順番守りゃいーのか?!

なら弁護士に頼んで、早く…
話進めてもらってくれよ

マリアが自由にされなれりゃ、それで…っ』







『それが…上手く進まないから

言ってるの・・・これ以上』





子ども染みた

無茶苦茶をぶちまけたって

マリアを苦しめるだけだ




なのに・・・






『んな話は今更聞きたくねぇよ・・・!』






『もしも・・・』






マリアが…冷静さを保つように

俺の言葉を遮って口を開いた






『もしも、何かあったら・・・』




『・・・っ』








『なんて・・・あっちゃダメ、って』








『・・・?』










『〃もしも〃なんか

あっちゃいけないって

それだけ思って今まできた』

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