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かごのとり ~ 家出娘の家庭事情 ~

第23章 逃避行・・・

ガタン…ゴトン…


深夜に一本だけ出ている
地方都市行きの長い列車



俺は、ついさっき
先輩社員が俺を気遣い
励ましてくれた言葉も

有り難みや感謝した気持ちも
すっかり忘れたかのように



進行方向が定まった・・・



そのことにだけ安堵していた





〃「マリアはすべてを捨てた

俺には何が出来るだろう」〃





答えの出ない問いは
やはり答えのないまままだったかも知れない





でも…失うものなんて

いっそ何もなくなれば

何も無ければ恐くねぇ…




人の人情や恩も
全て…裏切って



俺はこの時点で既に
俺を取り巻く日常や…すべてを
捨てる覚悟を決めていた





人道に背く事をして…何かを得ようなどと



そんなことは
何もかもを失ってでもないと
叶わない幻想かもしれねぇな



失わなければ得られない




それならば・・・






キュ…





二人掛のシートで手を繋いで
ぴったりとくっついて座る俺とマリア



この手を…握ることができて
良かった


愚かな俺に…ひとつだけ残るのが
マリアと繋いだこの手なら…


そんな風にさえ思っていた





深夜の…がら空きの電車の中

都会のギラギラしたネオンが
次第に遠ざかって見えなくなる



途中下車ナシ

なんか…イイな
終着駅のない俺とマリアの関係に
ちゃんと終着駅がある…そんな気持ち

今日は寝ててもイイんだぞ…終点までな


俺たちをのみ込むのは…夜の暗闇か
それとも・・・

外敵からマリアを…俺らを
包み込むように隠してくれる
穏やかな静寂か…



『ゆぅちゃん?……はじめから
こうするつもりだったの?』




『・・・んな訳ねぇだろ』



数時間前まで想像もつかなかった景色




『ふふふ・・・呆れた…ぁ』



体の力を抜くように
マリアが呟いた







そんな呆れ果てたマリアは…





ポフ・・・っ





手を繋いだまま
俺の胸にフワっと頭を垂れて
そっと寄りかかって・・・笑っていた



穏やかに…穏やかに微笑んで



『マリア…』


俺はその頭をそっと撫でながら
マリアの頭の上に自分の頭をのせて
そっと寄りかかる






静寂に…のみ込まれるように

俺とマリアは

寄り添ったまま…そっと目を閉じた

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