原稿用紙でラブレター
第1章 原稿用紙でラブレター
「…はい、今日はここまで」
チャイムと同時に一斉に騒がしくなる教室。
壇上の教科書類を手早く片付け、俯いてそそくさと出て行くその背中を追いかけた。
「にーのちゃん」
グレーのVネックカーデに、白シャツと紺スラックス。
銀縁丸メガネに、無造作ヘアー。
うん、今日も可愛く決まってる。
「…相葉くん、名前はきちんと呼びなさい」
「えーなんで?にのちゃんダメ?」
「ダメです。私は君の友達ではありません」
くるっと振り返ってそれだけ言うと、ペタペタとサンダルの音を立てて歩いていく。
もう、冷たいなあ。
あ…
「にのちゃん、これ持とうか?」
前を歩く小さな背中に駆け寄り、右腕に重たそうに抱える分厚い本の束をぐいっと持ち上げると。
バサバサっという音とともに足元にプリントが散らばった。
あ、やべ…
「ごめんねっ、」
言いながらしゃがんでプリントを掻き集めていると、スッと横に影ができて。
見ると、にのちゃんの横顔が近くにあって、ついそのまま見つめてしまった。
…あ、やっぱかわいい。
「…これ、」
完全に手を止めて見惚れていたところに、ふいににのちゃんが小さく口を開く。
「今日の小テスト…勉強してきましたか?」
メガネの奥から上目遣いでそう言われ、思わず息が詰まる。
「漢字の間違いが多すぎます。
ほら、ここも」
俺の答案を指差しながらずいっと顔の前に差し出される。
「…あれ〜?おっかしいな…
昨日まで覚えてたのに」
頭をぽりぽり掻いて首を傾げてみる。
けど、にのちゃんはじっとりした目で俺を見てて。
…バレてるよね。
傍らのプリントを拾い上げるとすぐ立ち上がったから、俺もつられて立ち上がり。
「ほら、次の授業始まりますよ」
少し下にあるその顔は相変わらずの仏頂面で。
…そんな顔じゃなくて、もっと可愛い顔が見たいのに。
両手で本を抱え直しながら歩いていく後ろ姿。
小さくため息を吐きながらぼんやり見つめていると、クラスメイトから呼ばれて名残惜しみながら教室に入った。