
原稿用紙でラブレター
第1章 原稿用紙でラブレター
大ちゃんには俺のにのちゃんへの気持ちを打ち明けていた。
というより、俺の様子がおかしいことにいち早く気付いた大ちゃんから声を掛けてくれたんだけど。
普段は何も考えてなさそうなのに、生徒の変化には敏感に反応して親身になってくれる。
そんな兄貴みたいな大ちゃんには、これまで何でも相談してきた。
にのちゃんのことだって普通なら諦めさせたりするだろうに。
この人は純粋に、俺の気持ちを受け止めて応援してくれてるんだ。
隣をチラッと見ると、頬杖をついてあくびをする眠そうな目が同じくこちらを見た。
「…やんねぇと、ほれ」
「わかってるよ…。
ねえ大ちゃんさ、俺…
にのちゃんにどう思われてんのかな?」
原稿用紙の隅に書いた黒い点を塗り潰しながら投げかける。
けっこうアピールしてるつもりなんだけどな…
「どうってそりゃ…生徒だろ」
「そういうんじゃなくて。
分かるでしょ?前も聞いたじゃん」
「そうだっけ?」
あからさまにとぼけた顔。
こういう時は大抵何かある。
「なんか言ってない?俺のこと」
「あ〜、そういえば…」
「え、なに?」
腕を組んで天井を仰ぐ大ちゃんに期待を込めた眼差しを送ると。
「昨日の小テスト、クラス最下位だったから勉強するようにって言われたな」
「…はぁ〜?」
「はぁ?じゃねえよ。お前のせいで俺怒られたんだぞ。
ちゃんと勉強しろぃ」
ジトッとした目で口を尖らせる大ちゃんに体ごと向き直り。
「ねえ、にのちゃんてさ…
彼女いると思う?」
「ん〜…いないんじゃねえの?
いるようには見えねぇし」
「いやにのちゃんはモテるんだよ、大ちゃんと違って」
「ばか、俺だってなぁモテんだよ」
わざとらしく鼻を鳴らすその顔に小さく吹き出した時、校内放送が流れてきて大ちゃんに呼び出しがかかった。
「…あ、今から職員会議だった!」
「え、うそ!何やってんの、早く行きなよ!」
慌てて立ち上がってドアまで駆けていくと、振り返って”早く帰れよー”と残して大ちゃんは出て行った。
苦笑しつつ手を振り返事をしてから、真っさらな原稿用紙をまたしばらく見つめる。
…あーあ、どうしよ。
机に顔を突っ伏してくるりと反転させると、窓から差すオレンジの陽がぼんやりと頰を染めた。
