原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
物理準備室の前でドア窓から中を覗っていると、急に後ろから声を掛けられてビクッと肩を揺らした。
「おい、部外者は立ち入り禁止だぞ」
「…っ!もう、びっくりしたじゃん!」
ニヤっと笑う大ちゃんは、ベージュのチノパンに目の細かいギンガムチェックのボタンダウンを腕捲りしてて。
おまけに素足にサンダル。
相変わらずのラフなそのスタイルに、悪いけど学年主任の面影は欠片も感じられない。
「また来たのかお前。二宮先生こんなとこいねぇぞ」
「いいじゃん別に。にのちゃん部活でしょ?知ってるよ」
「じゃ何だよ。俺になんか用か?」
怠そうに言いながら、耳をぽりっと掻いて俺の返事を待つ。
最近のにのちゃんの様子がまたおかしくて。
メールや電話では別に普通なのに。
俺と居る時に何だか妙に緊張してるような、そわそわしてるような。
この間にのちゃんちに行った時には結局何も聞き出せなかった。
俺には関係ないこと、って言って自分で消化しようとするのがにのちゃんの悪い癖。
だから、俺もにのちゃんも思ってることは言い合おうって。
大ちゃんに教わった通り言わなきゃ伝わんないから。
なのにまた、にのちゃんはきっと自分だけで抱え込もうとしてる。
俺にも言えないことって…
それってなんなの?
「…なんだよその顔。まーたウジウジしてんのか」
「っ、違うよっ…いや、にのちゃんがさ…」
大ちゃんに打ち明けようと口を開いた時、廊下の先の方からガヤガヤとした声が聞こえて。
目を遣ると、三、四人の生徒が大きな声で喋りながらこちらに歩いてくる。
やけに元気がいいなと思っていると、振り向いた大ちゃんが急に声を上げた。
「ぁ、おい有岡!お前レポートどうした!」
珍しく感情のこもったその声に俺まで怒られてるような感覚になって。
だけど、怒鳴られている当人はニコニコしたままゆっくりと歩いてくる。
周りの友達はソイツに手を振ると俺たちの横を通り過ぎた。
「も~そんな怒んないでよ、大ちゃん」
屈託のない笑顔で馴れ馴れしくそう呼ぶ生徒は、上履きの色から新一年生だと分かった。
やんちゃな生徒の相手も大変だななんて思っていると、その悪びれのない視線が大ちゃんを通り越して俺へと注がれて。