原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
長かった梅雨からようやく抜け出し、青空の下で爽快に自転車を走らせる。
一人暮しに向けて動き出したにのちゃんは、俺の予想を遥かに超える勢いで家を即決して。
引越し手伝うから日取りを教えてって伝えてたのに、そんなに荷物はないからと断られてしまい。
そんなとこがにのちゃんの優しさなのかもしれないけど、頼られなくてちょっと寂しかったりもする。
だけど。
立ち寄ったコンビニで迷うことなくお弁当コーナーへと向かい。
ざる蕎麦を二つ手に取り、にのちゃんの好きなコーヒーも添えて。
"相葉くんには引越して一番最初のお客さんとして来てほしい"
…なんて言われちゃったら素直に従うしかないよね。
真新しい二階建てのアパートの下に自転車を停め、緊張しながら階段を上ったはいいものの。
チャイムを押しても全く応答がない。
…あれ?
部屋間違っちゃった…?
そう思い慌ててスマホを取り出した時、階段を駆け上がってくる音が聞こえて。
「相葉くんっ!」
息を切らして駆け寄ってきたその手には、俺と同じビニール袋が。
「ごめん!これ買い忘れちゃって…」
そう言って差し出してきた袋の中身を見て思わず吹き出した。
こんなたまに見せる天然っぽいところも。
子どもみたいに拗ねたり、気持ちを押し込めたりするところも。
全部、受け止めてあげる。
同じように差し出した袋をにのちゃんが覗き見て、小さく"ぁ"と呟く。
「…こんなに食べれないね」
「うん…ふふっ」
そして、部屋の前でぎこちなく鍵を開ける姿にも自然と顔が綻んでしまい。
ようやくドアが開いたと思ったら、すぐににのちゃんが中に滑り込み。
「待っててっ!」
振り向き様にそう告げられたのも束の間、カチャっと開いたドアから小さな声が届いた。
完全攻略への道はまだまだ険しいけれど。
心の鍵を開ける手掛かりは、見つけられたから。
それはきっと俺にしか開けられないんだ。
だって…
「…いらっしゃい、相葉くん」
なんてったって。
あの仏頂面を、こんなに煌めく笑顔にできた俺だから。
「…おじゃまします、にのちゃん」
…これからもずっと。
ずっと一緒に、笑ってようね。
『年上彼氏の攻略法』end