赤い糸
第14章 大切な時間
「いってらっしゃい。」
軽く唇を合わせて手を振る私は彼に対する想いを蘇らせてしまったことで
…バタン
「あ~ぁ。」
寂しさまでも思い出してしまった。
今朝、目を覚ますと大きなTシャツを見に纏っていた私。
事後そのまま眠りに付いてしまった私に京介さんが見かねて着せてくれたんだと思う。
そんな小さなことで自然と頬は緩み目の前にある半裸の彼の胸にそっとキスをして鼓動を唇で感じて
起こさないように拘束される長い手足からなんとか抜け出した一時間前。
今日を含めてあと3日しか一緒に居られない。
だったらその3日すべてを彼のために捧げたい。
そんな想いでお弁当を作り洗濯機を回した。
起こす時間はアラームの設定時間より5分早め。
なかなか起きてくれない彼を起こすのは意外に楽しかったりする。
そして彼と甘いおはようのキス。
渋々起きて支度をする彼のネクタイを大して曲がっていないのに直してみたりして
記憶の欠片を繋ぎ合わせながら奥さんみたいに振る舞って玄関でキスをして手を振った。
「さて、はじめますか。」
大きなTシャツをバサリと煽ってハンガーにかける。
私に出来ることはこんな小さなことばかり。
大好きな人のために…忘れてしまった過去をもっともっと思い出したくて
「あれ?私の靴下…あった。」
大きな靴下の横に私の小さな靴下を干す。
「あとは…シーツが洗い上がる前に布団を干してと…」
カーテンが爽やかな風を送り込んでくる4月の終わり。
…早く帰ってこないかな。
掃除機を掛けながら彼を想う私はあとどのぐらい思い出せばいいのだろうか。
*
「それ彼女のお手製弁当?」
「えぇ…まぁ…」
昼休み、彩りよく詰められた弁当を先輩たちが覗いてくる。
「そうだよな、世間はGWに突入したもんな。」
俺たち信金マンのGWは赤日だけ。平日もうまい具合に合わせて大型連休…なんてシステムは残念ながら存在しない。
「彼女泊まってんの?」
「…まぁ。」
「おまえは幸せなGWを過ごすんだな。」
そんなニヤニヤして俺を見ないでくれよ
「という事で俺は今日定時に上がらせてもらいますから。」
「出来るもんなら上がってみ。」
わかってるよ。GWで仕事が山積みだって。
でも…時間はないんだ。
「上がって見せますよ。」
たった3日しかないんだ…