赤い糸
第14章 大切な時間
「ハァ…」
せっかくだから大浴場に行きたいと璃子は俺の腕をすり抜けた。
最初から飛ばしたって仕方がない。璃子の提案を受け入れて別々の暖簾をくぐった。
風呂に入る前 東京で働いてる先輩に連絡すると俺たちの分まで楽しんでくれと言ってくれた。
こんな素敵な宿だ、きっと長年連れ添った彼女にプロポーズでもしようとしていたのかもしれない。
…あぁつまんねぇ
こんなときでさえ璃子のぬくもりを求めてしまうなんてマジでらしくない。
…パシャ
湯の中から手を出して首にぶら下げた指輪を確かめる。
…璃子はアメリカに行ったら恋敵とひとつ屋根の下で住むんだよな。
治安が悪い他国ではその方が安心するかもしれないけど…頼によってアイツと一緒なんて。
そこは許しがたい。でも…何も言えない。
こればっかりは璃子を信じるしかないんだ。
「…ハァ。」
窓の外に見える山並みを眺めながら自分に言い聞かせるように息を吐いた。
*
「…ふぅ。」
宿も一級品ならお湯も一級品。
少し硫黄の香りがする源泉かけ流しのこの温泉に肩まで浸かり窓の外の深緑を眺めていた。
あと少し…
まだ時間はあるって思っていたのに…
どうして楽しい時間はあっという間に過ぎていくのだろう。
…時間が止まればいいのに
お部屋で京介さんに抱きしめられ唇を重ねたとき
私はそのまま抱かれたいって思った。
心のどこかでちゃんと覚えてる 力強さの中にあるぬくもりと私だけを求めてくれる熱。
…行きたくないなぁ
触れれば触れるほど私の心は抑えが利かなくなっていた。
…ザバァーン
曇った鏡にぼんやりと映る小さな体を眺める。
胸は少し大きいけど、背は小さいしお尻だって小さい。
ナイスバディと掛け離れているこの体。
元カノの遥香さんは女の私から見ても羨ましい体つきだった。
きっと歴代の彼女もそうなはず。人より少し大きな胸だけじゃ太刀打ちなんかできない。
でも…
…愛してもらいたい。
今までの人よりもたくさんたくさん。
髪をドライヤーで乾かして少しだけ化粧をのせる。
…浴衣だから髪はアップにした方がいいかな
夜までまだまだ時間はあるけど
…忘れられない夜にしたいから
いつもよりグロスを少し多めに唇にのせた。
京介さんの言ってた通りだ。
「よし…」
今の私はかなり積極的みたいだ。
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