テキストサイズ

オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第3章 導入部・その①

 
「……あや?」

「……」


  絢音は裕に握られていた手を強引に解いて、
  元来た国道をずんずん歩き、2人の自宅に近い
  河川敷についた所で止まった。
  
  
「やっぱり俺とじゃ、いや、か……絢は兄ちゃんが好き
 なんだもんな」

「え ―― っ、どうしてそれ……」

「そりゃ判るよ。俺ら、幾つの時から一緒だと
 思ってんの? 絢の視線の先にはいっつも
 兄ちゃんがいるんだもん。さすがの俺も、何度も
 諦めようって、思ったけど、無理やった……」

「諦めるってなに……」

「俺は絢、お前が好きだ。何時からなんて、分かんない
 くらいずっと前から」

「ふぅ~……けど、こんな土壇場になって告られた私は
 一体どうすりゃええん?」

「俺、兄ちゃんみたいにオトナの割りきった恋愛は
 出来んから、その気がないなら振ってくれた方がいい」

「けど、私がここでオッケーしたとしてもうちら、
 すぐ離ればなれになっちゃうんだよね」
 
 
  そう言って、裕の胸に顔を埋めるようにして
  大泣きする絢音。
  
  裕は、何がなんだか、訳がわからず、ただ、
  ヲタついてしまうばかりで……。
  
  
「……いいよ。でも、ラブホはいや」


  そう言われ、裕はやっと気が付いた。
  
  
「あ ―― ご、ごめん、俺ってば、
 全然気が付かなかった……じゃあ……あのさ、
 兄ちゃん日曜まで帰ってこないから……
 俺んちでいい?」
 
 
  絢音は、コクンと頷いた。          

  ”和泉屋”の市中営業所勤務の隆は、
  東京の中学校・高校へ修学旅行の招致をする為
  出張中だ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ