
オオカミは淫らな仔羊に欲情す
第6章 新しい日常
その表現はどうか、と思ったが。
絢音もあんな感じの男は生理的に受け付けない。
何より、だらしなさそうな奴は絶対ダメだ。
竜二の乗った車は雨に濡れた路面にタイヤを
ギュギュッと鳴らし、アクセルをふかし走り
始めた。
だが同じ方向にやってくる。
道のなるべく端っこを歩いている絢音の横を
通りすがっていくところ。
その絢音の目の前に水溜まり、そこを避けて
先へ進もうと ――。
「……きゃっ!」
たまたま凹凸のあった路面にできた水溜まり。
そこを竜二の車が通った途端に飛沫が散り、
歩いていた絢音へと容赦なく飛ばされてきた。
呆然とする絢音。
我に返って自分を見下ろすと右半分、黒い斑点が
元々の柄のように散らばっている!
”うわぁぁン!”
このコート買ったばっかなのに、裾から衿まで
見事なまでのドット柄。
「マジぃ?? うそ、信じられない~」
8900円もしたのに!
お小遣い切り詰めてやっと買ったのに!
ナニこの状況!
何か、マジ、泣きたくなってきた。
―― と、後ろの方で、バタンと車のドアが
閉まった音がした。
「いやぁ、わりぃ わりぃ」
あの黒いヤー車の竜二が律儀に車を停めて、
運転席から出てきてしまった。
しかもこちらに走ってくる。
関わりたくはなかったが、人に水溜りの泥水を
ぶちかけておいて ”わりぃ わりぃ” って、
そんなふざけたまるで反省の色が見えない
竜二の口調が非常にムカついた。
