
オオカミは淫らな仔羊に欲情す
第8章 学校にて
「―― ちょっと、ちょっと絢ぁ。断ったんだって?
こないだの会社」
帰り支度して自販機コーナーにいる私に、
利沙が話しかけてきた。
「うん、さっき断った」
私の言葉に利沙は笑った。
「このご時世に、高卒でいいから会社の方から
来てくれって言われる奴はそういないよ、
就職しないの?」
「するよ? 和泉屋に」
「って、自分家の旅館じゃん。手伝えって
言われてんの?」
「ううん、お父さんはやりたい事すれば良いって言って
くれるけど、今のところ私のやりたい事が和泉屋を
大きくする事だから、ちゃんと大学まで進んで、
経営の事も勉強して和泉屋に就職する」
何十年も続いて来た老舗、後継者不足でなんて
潰してなるものか!
缶コーヒーを飲みながら、おやつ代わりの
菓子パンをパクつく。
「センセが、勿体無いって嘆いてた」
「そう?」
利沙は頷きながらタバコを吸い始める。
「朝も早よからサ店で働いて、週末はカテキョ、
自分の勉強する時間なんてないだろうに学校いちの
才女。なのに就職は家業って……」
「試験なんて授業を真面目に受ければ、意外と点数は
取れるもんよ?」
私は利沙にニヤリと笑う。
「それはいやみ?」
歯をわざと食いしばりながら言う利沙に笑う。
「うんにゃ、経験者」
「たくもぉぉっ!」
