幸せの欠片
第6章 戸惑いと優しさ
目を開けるとそこには
相葉さんが困ったように笑って立っていた
「今のは、勝手に降りて走り出した事に対してね」
じゃあ、次はきっと思い切り叩かれる
覚悟を決めて、再びギュッと目を瞑った
だけど衝撃はいつまでも訪れなくて
変わりに俺の唇に、柔らかいものが触れた
「…これが、キスに対するお返し」
「え……」
柔らかいもの、は相葉さんの唇だった
「とりあえず、乗って」
グッと腕を掴んだ相葉さんが、有無を言わさずに助手席に俺を押し込める
何が何だか分からないうちに、シートベルトもしっかりと装着されて
思考が付いていけなくて、ただ相葉さんの行動を見つめる事しか出来なかった俺は
車が走り出しても、まだ頭の中は混乱したまま
相葉さんの運転に身を任せていた
「遅くなって、ごめん」
ふいに、相葉さんが前を向いたまま呟いた
「え…」
遅くなるも何も、相葉さんが謝る事は何もない
「ちょっと、考えてたんだ」