Hello
第38章 櫻井くんと俺ら①
Aiba×
朝、青空を見せていた空は、昼過ぎからみるみると曇りがちになり、やがて冷たい雨を降らせ始めた。
「あー…ついに降ってきたわ」
楽屋の窓から空を見上げてた翔ちゃんが、残念そうにため息をついた。
わりとまとまった雨のようで、窓ガラスにも水滴が散るほど。
どうりで、湿気が多いと思った。
「珍しく洗濯したらこれだよ…」
軒下だけど…濡れるよなぁ、これ…と、ぼやく翔ちゃんに、クスクスとつっこむ。
「天気予報みなくちゃ。翔ちゃんらしくない」
「……晴れてたし」
「朝はね。帰って乾燥機まわせば?」
「もっかい洗わないと臭くなるじゃん…」
「俺の宣伝してる柔軟剤使ってたら臭わないよ」
「使ってるよ。でもびしょ濡れになってたら意味なくね?」
ぷーっと頬をふくらまし、ごねる翔ちゃんは、あんたいくつ?ってくらい可愛らしい。
主婦のような会話だな。
いや、それより。
俺の宣伝してる柔軟剤使ってくれてるんだ、とそちらの方が感動した。
俺は、嬉しくって、自分のオススメを思い出す。
「いい匂いでしょ?オレンジ色のパッケージのやつ、いーよ」
「あ、そうなんだ。おれグリーンが好きだわ」
「ふうん……」
「だって、相葉カラーだもん」
「……」
なんって嬉しいことをいってくれるのだろう。
こういうちょっとしたことを無意識に言ってしまうのが、翔ちゃんたる所以だ。
「……ちょっときて」
手招きすると、翔ちゃんは不思議そうに寄ってくる。
なに?と、その唇が動く前に、俺も立ちあがり、その体をぐいっと引き寄せて抱き込んだ。
「…こら…!」
「ちょっとだけ」
温かな翔ちゃんの体温と、グリーンのパッケージとやらの柔軟剤の香りのするシャツと、耳もとから香る香水と。
翔ちゃんの存在を丸ごと腕の中にとじこめ、俺は、うっとりと深呼吸する。
「……誰かくるよ……離せって」
「やだ」
「……」
あきらめたように、翔ちゃんの腕が俺の背中に静かにまわる。
俺たちは、マネージャーがくるまで、しばらく無言でぴったり抱き合っていた。
……キスしたかったけど、止まれなくなりそうで、そこは全力で耐えた。
やがて、どやどやとマネージャーらが入ってきそうな気配を感じ、さりげなく体を離す。