Hello
第8章 好きなものは * 山
Satoshi
ぼんやりしすぎていたのだろう。
「……口、閉じなさい」
含み笑いながら、翔ちゃんが隣に立った。
裾の長い上着をはためかせて、吹いてくる風に顔を向け、目を細めてる翔ちゃんは、相変わらず男前だ。
「……あい」
ふふっと笑って、口をひき結んだ。
今日は、スタジオではなく、久しぶりに外での撮影となった。
場所は緑豊かな公園。
季節外れの台風が通りすぎ、今日は、抜けるような青空だ。
清々しい秋の空。
気持ちのいい風。
相棒は、翔ちゃん。
気分よく仕事ができる条件がここまで揃うのも珍しくて、俺は朝からご機嫌だ。
「空が高いなあ……」
翔ちゃんが空を見上げて、気持ち良さそうにのびをした。
「秋だね」
なんてことない会話が心地いい。
「控室みた? すごい美味しそうな差し入れがあった」
ふとわくわくするような目になり、こちらを見る翔ちゃんは嬉しそうだ。
「……ほんと?」
「ほんとほんと」
ロールケーキだと思うんだよなあ、あの箱は…と顎に手をあてて考えてる様は、一見そんなことをかんがえているとは思えないほど、絵になっていて、おかしい。
男前は、これだからな。
くすっと、笑って翔ちゃんをみると、にっと笑ってこちらを見つめかえす大きな目が、綺麗すぎてドキンとした。
自覚があるのかないのか。
時々、こういう目を流してくるから、この人は、たちが悪い。
「……どしたの」
そして、この男は、俺の考えてることをすくいとるのがとてつもなく上手い。
「……いや、なんでも」
「そう?」
じーっと見つめてくるから、さりげなく目をそらしたら、翔ちゃんが面白そうにつっこんだ。
「そらさないでよ」
「……そらしてない」
「嘘。こっち見てよ」
「……やだ」
ダメだよ。仕事中だよ。
絶対この人、俺の反応みて面白がってる。
「ねえ」
翔ちゃんの声に艶がまじった気がした。
俺は、たまらずに翔ちゃんから一歩離れた。
「バカか? そんな目すんな」
「どんな目?」
そこで、スタッフが、俺らを呼ぶ声がした。
ホッとして、振り返ろうとしたら、翔ちゃんが小さく呟いた。
「……あとでキスしてあげる」
真っ赤になった顔を、もとに戻すのに苦労したのはいうまでもない。
翔ちゃんのバカ…。
20171027