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Hello

第17章 Capricorn * 磁石

Kazu


翔ちゃんの出国まで、あと半日。

精神的にも肉体的にも恐らく過酷極まりない仕事をひかえてんだから、出かけるまで家でゆっくりしてりゃいいのに、翔ちゃんは俺の楽屋に顔を出しにきた。

ちょうど個人で持つ番組の待ち時間。

「入っていい?」

遠慮がちに確認してくるから、笑って頷いた。
出発は、何時だったっけ?

「まだ行かないの?」

「うん。四時間後に集合」

「体調は?」

「良好」

翔ちゃんは、颯爽と部屋に入ってきて、ソファにしずむ俺の横に、静かに座った。

やってたゲームにセーブをかけ、見上げる。
翔ちゃんは、ん?というように男前に笑んでる。

へたれなくせに、こういうときはカッコ良さに隙がないから、ずるい。

「……あっち、すごい寒いらしいじゃん」

「うん……俺が行くと、現地は吹雪だろうな」

「……さすがエルサ」

「だろ?」

クスクス笑って、テーブルの上のタバコに手を伸ばし、……火をつけた。

目で、吸う?と、問いかけ、箱とライターを重ねて押し出したら、

「少しでいい」

と、言われた。

「?」

どういう意味か、問いかけようとしたら、俺の手から素早くタバコを取り上げた翔ちゃんは、そのままそれを灰皿にぎゅっとおしつけて。

「もったいない……」と、いう言葉は、荒々しく抱きこんできた翔ちゃんの唇にのみこまれた。

「……しょう…ん」

息をする隙間すらあたえないほど、深く重ねられる。

差し込まれた舌が、俺の舌を絡みあげ、思わず口をあけたら、さらに深く角度をかえられる。
苦しくなり、頬に添えられた手をつかもうとしたら、その唇がゆっくりと離された。

「……はあ…いきなりすぎ…」

息を弾ませて、強がってみるものの、こんな刺激的なキスをされて、普通じゃいられない。
照れもあり、うつむくと、

「…ごちそーさん」

にっと笑って翔ちゃんは立ち上がった。

「メンソールの味も、お前からだと甘いな」

「……そーかよ」

「じゃ、行ってくるな」

「は?」

「ゲームばっかしてないで、テレビもみろよ?」

え……翔ちゃん、あなたいったい。

「……何しにきたの?」

「キスしにきたの」

さも当然と言わんばかりの笑顔を残し、翔ちゃんは、楽屋をでていった。

「ふ…はは」

残された俺は笑うばかり。

さすが、翔ちゃん。

…いってらっしゃい。

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