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Hello

第25章 卒業 * 准一と翔


Sakurai teacher


卒業生の姿を目に焼き付けておこうと、校庭を見渡していたら、フェンス越しに立ち止まっている二人組の青年に気づいた。

穏やかな空気を醸し出してる彼らの姿に……心臓がとまるかと思った。

二人ともかつての教え子だ。

片方の小柄なふんわりした印象をもつ男……大野は、俺に思いを寄せてくれていた。
でも、……その思いには応えられないから、俺は知らないふりをして、いい教師を演じ続けた。
俺を追う澄んだ瞳が忘れられない。


そして、もう片方の華やかな顔立ちの男……松本には、俺自身が思いを寄せていた。
でも、……立場上この思いを伝えることはできなくて、やっぱり俺は自分の心に蓋をして、いい教師を演じ続けた。
弾けるような笑顔をみるだけで、心が揺れた。


自分を殺して過ごした、苦しかった時期。
忘れたくても忘れられない二人。

噂では、一年年上だった大野が卒業したあと、二人つきあうようになった、とは聞いていたが。

「本当だったんだな……」

とっくに決着したとおもっていた思いだが、本人たちを前にすると、少しだけ胸が傷む。

罪悪感なのか。
後悔なのか。
……よくわからない。

「あれ……大野と松本じゃん」

めざとく俺の視線の先をみて、隣で岡田先生が呟いた。

「声かけねぇの?」

「…かけないよ」

今、二人が幸せならそれでいい。

俺の事情を知ってる唯一の男である、岡田先生は、その精悍な顔を少しだけ心配そうに歪めて、俺をじっと見つめてくる。

「なに」

「いや、櫻井先生大丈夫かな、と思って」

「……大丈夫にはみえない?」

「うん」

俺は苦笑いして、肩をすくめた。

「大丈夫だよ。もう終わったことだ」

……そう。
この話は何年も前にすんだこと。
でも、ほんの数年の間に、大きく揺さぶられた俺の心は、あれ以来極端に臆病になっていて。

「そっか」

岡田先生は優しく頷き、俺の肩を抱いて、二人からみえない位置に俺と体をいれかえた。

「だからさ……もう俺にしとけって。あんなガキたちじゃなくて」

「またその話?」

「おう。何度でも言うぞ」

「考えとく」

「また?」

「うん」

あなたの熱い思いに応えれる自信がつくまで。
もう少し待って。

俺は、岡田先生の体温を感じながら、くすりと笑い青い空を見上げた。


End



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