Hello
第26章 ゆるやか * にのあい
Aiba
知らず、つめてた息を吐き出した。
みつめてたテレビでは、画面が切り替わり、バラエティの予告が流れ始めてる。
今クールのドラマ内で、悪魔のような医者といわれる役をしてるにの。
ボサボサの頭で、おおよそ医者っぽくない風体だから、飄々としたのんびりした性格なのかと思いきや。
竹内くんたち共演者をなめるように見上げ、いやらしくも、鋭い目力で演じるにのを見て、思わず息をのんだ。
なんという存在感。
役者としての力量の差を見せつけられた気にすらなる。
しかしそんなすごい俳優は、傍らでぴったり俺に寄りかかり、モゾモゾと動きながら、ゲームに興じていて、自分のドラマなんか興味ございませんとばかりに、一度も顔をあげなかった。
あまりにもギャップのある役をみたせいか、ここにいるいつものにのに、なんだか、ホッとする。
ボサボサの頭にみせるために、若干伸ばした髪の毛は、風呂上がりのためか、少し湿っていていい匂いがする。
「……にの」
「………んー?」
間延びした返事。
少し甘えたようなトーンのこの声音を聞くことができるのは、俺だけだもんね。
「すげーよ。おまえ」
「………なによ、急に」
笑いを含みながら、チラリとこちらを見上げるにのの目が笑ってる。
さっきの悪魔のような目とは全然違う、その茶色い瞳は、柔らかな空気をもって俺を包み込む。
いつものにの。
やっぱりこの目が俺は好き。
俺は、片手を伸ばしてにのの肩を抱いた。
にのは、ゲームをしたまま、黙って頭をコツンと俺の肩にのせた。
華奢な体。
柔らかな髪の毛に指を絡ませて、その手触りを楽しむ。
にのは、ゆったりとされるがままだ。
ゆっくり流れるこの時間を大事にしたい。
………あ、そーいや。
「俺、思ったんだけどさ、あの、渡海の低いけだるーい声。エッチしたあとのにのの疲れた声思い出しちゃった」
「………」
「ちょっとドキドキしちゃうかも」
「……バカなの?お前」
にのが、赤い顔で俺を見上げる。
「そんな、やましい目で見るのお前くらいだわ」
「しよーがないじゃん。にののこと大好きなんだもん」
俺は、あきれたように笑ったにのの顎に、ゆっくり指をかけた。
「…………聞かせて。にのの甘い声」
にのは、ほんのり赤くなり、誘われるように目を閉じた。
end