Hello
第29章 ☆ * 大宮
Satoko
ふわりと通り抜ける風が、気持ちよくて、天を仰ぎ、目を閉じた。
バルコニーの手すりは、昼間の太陽の熱が少し残ってて、あたたかい。
さわさわと木々がゆれる音に耳をすました。
香る緑も、夜の澄んだ空気と混じると、昼間と違う表情をもつ。
………と、サラサラ流れる俺の長い髪に、そっと、指がふれた。
誰か、なんて見ないでも分かる。
「………なにしてるんですか」
柔らかな声音で、そのまま手櫛で髪の毛をゆっくりとかれ、
「んー………?」
それが気持ちよくて、俺はくすりと笑って答えた。
「……星………見てた」
「………ああ、今夜はひときわ綺麗ですね」
「だろ」
ミヤが俺の腰に手を回し、そのままぐっと抱き寄せてきたから、俺はその肩にことんと頭を乗せた。
夜空には、幾千の星が瞬いていて。
じっと見上げていたら、なんだか空に吸い込まれそうで、俺はまわされたミヤの手に自分の手を重ねた。
「………サトコ様?」
「………ミヤ」
「はい」
「どこにも行くなよ」
「………はい?」
「俺のそばから離れんなよ」
「………どうしたんですか」
ミヤがくすっと微笑んで、俺の顎に指をかけた。
「………」
目があったのは一瞬。
俺が再び目を閉じるのと、しっとり唇が重なったのが同時だった。
そのまま、そっと抱き締められ、俺も、ミヤの薄い背中に手をまわした。
「離れないよ。言ったでしょ。サトシがいらないっていうまで、そばにいる」
「じゃあ、ずっと」
「………ふふ。ずっとね………」
ぎゅっと俺を抱く腕にこめられた力が嬉しくて、俺も離さない、とばかりにしがみついた。
「………今日はね、サトシ。異国の風習で、七夕っていう日にあたるんだそうだよ」
「ふうん………」
「一年に一度。恋人同士の星が、巡り会う日なんだってさ」
「………なんかロマンチックだな」
「でしょう」
ミヤの肩越しに空を見上げれば、まるで夜空を川のようにながれる満天の星たちをはさんで、ひときわ輝く二つの星が目に入る。
………あの星のこと?
考えてると、ふわりと抱き上げられた。
「年に一度なんて………俺には耐えらんないけどね」
ミヤの楽しそうな声音に、
「………同感」
俺はこくんと頷き、ぎゅっとその胸に顔を寄せた。
Fin.