好きにさせて
第12章 嘘
「尚…」
茜は申し訳無さそうな顔で
俺を見つめた
「そんな顔すんな。
とりあえず
今日会えて話せただけで
ちょっとは
元気になったから」
「…うん」
「あ、長話して、ごめんな?
もう店閉めるか?
早う帰って寝た方がええ」
「…あ…うん…
とりあえず…
看板だけしまってくる」
「おう」
それから俺は
トイレに行き
トイレから戻る途中
小上がりの暖簾をめくって
中を覗いてみた
なんや…これ
小上がりの中は
テーブルを立たせて
空いた場所に
座布団が敷かれ
クッションと毛布が
置かれていた
小上がりは
3人がやっと座れる程度の広さで
足を伸ばして
寝られるほどの広さはない
もしかして
茜…
ここで寝てたんか?
「尚?」
看板を片付けた茜が
小上がりを覗く俺に
声をかけた
「なんやこれ
調子悪うて寝てたんか?
大丈夫か?」
思わず
茜の手を握って
体温を確かめたけど
よう分からんくて
俺は茜のおでこに
手のひらをくっつけた
「熱は…なさそうやな」
「だ、大丈夫。
そんなんじゃないの、ほんとに」
「ほななんや?」
「ん〜…」
茜は
ふんわりした返事をして
話が終わってないのに
カウンターの中に入った
いつものやつや
誤魔化してる
俺も茜を追って
カウンターに入り
端まで追い詰めると
茜を質問責めにした
「あそこで寝てるんちゃうか?
俺のことに来られへんなって
あんなとこに
泊まってんのやないんか?
新しい男んとこに
行ってないんか?
ほんまに
好きな男と
うまいこといってんのか?
なぁ、茜
ちゃんと食うてるか?」