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好きにさせて

第2章 二人


「なぁ」


「ん?」


「無理せんでええで」





「…無理?」




茜は
俺を見ることなく
グラスを見つめたまま
返事をした



「俺は藤沢のこと
昔からよう知ってるし
せやからよう飲みに来てるんやし
藤沢が笑うてなかっても
俺は飲みに来くるし」


「……」


「しんどい時は
無理して笑わんと普通にしてたらええ」


「……」


「せやから今も
笑わんでええし
気い使わんと
飲みたいだけ飲んだらええ」



何があったかは知らんけど
母ちゃん亡くして離婚もして
そんでも
慣れてないこの仕事やって
そんだけでも十分しんどいのに
笑わなあかんのは
キツイやろう

しんどそうな茜を見てたら
俺は
何でも言い合っていた
あの頃のような
素直な茜を見たいと思った


「やだ…」


「ん?」


「そんなこと言われたら
泣いちゃいそう」


泣きたかったら
泣いたらえぇ

そう言えば
かっこえぇやろうけど
なんや照れくさくて
俺にそんなことは
言えへんかった


「なかなか
えぇこと言うやろ?」


「そうね(笑)」


「寒ないか?
シャツ一枚で」


「じっとしてると
ちょっと寒いね。
熱燗…飲んじゃおうかな。
野崎くんも飲む?」


そう言って
俺を見る茜の顔は
ホッとしたような
なんや
角がとれたような
ふんわりした笑顔やった


「熱燗えぇなぁ」


「じゃあ準備するね」

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