好きにさせて
第16章 現実
『終わったで。
これから小夜に行くな』
そうLINEを送ったのは
小夜に到着する
少し前やった
タクシーが
小夜の近くに車を停めると
茜がちょうど
客を見送りに店から出てきていた
LINEは未読のまま
俺は
タクシーから降りて
ゆっくりと茜に近づき
客の見送りを終えた茜に
声をかけた
「お疲れさん」
「尚!」
「なんや会いたなって
来てしもたわ。
客、まだおるんか?」
そう言って
店を指差すと
茜は首を横に振ったあと
看板の灯りを消して
俺の手を握った
「もう誰もいないよ。
寒いでしょ?
早く入って」
茜は
ちょっと元気のない俺に
気づいてるんやろう
茜は俺を
心配そうに見つめた
「座って」
店に入ると
茜はいつもの席をひいて
俺を座らせようとしたけど
俺は
そのまま茜を抱きしめて
甘えるように
首元へ頰をすり寄せた
「尚…」
茜は
俺を優しく包み込みながら
俺の名前を呼び
そして
泣きそうな声で謝った
「…ごめんね…尚…」
「なんで…謝んねん…」
「……尚、元気ないから…」
「言うとくけど
反対されたわけやないからな?」
「…うん」
「茜が好きでたまらへん…」
「…尚…」